最高裁判所第三小法廷 昭和57年(オ)384号 判決 1983年1月25日
上告人
西口満
上告人
大池運送株式会社
右代表者
大池三郎
右両名訴訟代理人
春田健治
被上告人
トーヨー・ニットータイヤ関西共販株式会社
右代表者
藤田昇久
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人春田健治の上告理由一について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
同二について
商法二三条の趣旨とするところは、第三者が名義貸与者を真実の営業主であると誤認して名義貸与を受けた者との間で取引をした場合に、名義貸与者が営業主であるとの外観を信頼した第三者を保護し、もつて取引の安全を期するということにあるというべきであるから、名義貸与を受けた者がした取引行為の外形をもつ不法行為により負担することになつた損害賠償債務も、前記法条にいう「其ノ取引ニ因リテ生ジタル債務」に含まれるものと解するのが相当である。
してみると、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、上告人西口満のした不法行為により被上告人が被つた損害につき、上告会社において商法二三条所定の名義貸与者の責任を負うべきであるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、ひつきよう、原審の認定にそわない事実に基づいて原判決の不当をいうか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(横井大三 伊藤正己 木戸口久治 安岡滿彦)
上告代理人春田健治の上告理由
一、原判決はその判決理由に齟齦があり、民事訴訟法第三九五条一項六号に該当するものである。
(一) 原判決は、上告人西口が訴外池田と共謀してタイヤ一〇〇本を詐取したことを理由として金二四〇万円の支払義務を認定している。
しかし上告人西口は、訴外加茂と会つたのは一回だけでありタイヤの売買については訴外加茂からの申入はあつたが上告人西口は之を断つており、合意は成立していない。
(二) 右上告人西口と訴外加茂の合意内容について、原判決は「控訴人西口との間で被控訴人から控訴会社に対しタイヤ一〇〇本を売り渡すこととし、代金はタイヤ一本当り二万四〇〇〇円とし、タイヤ引渡後九〇日目を満期とする手形によつて支払う旨定まつた。尚、その際、右両者間において右タイヤ引渡の期日・方法等は控訴人西口の代行者たる池田と加茂との間で定めることが諒承されていた」旨を認定している。
しかし、上告人西口の第一、二審を通じての証言及び証人加茂の第一審の一・二回にわたる証言からみても、右認定の根拠となる証言は全く存在せず原裁判所の作文にすぎない。
(三) 本件が原判決の如く、上告人西口と訴外池田との詐欺行為であるなら、被上告人が上告人西口と訴外池田を詐欺罪に該当するとして告訴した刑事々件においても起訴され有罪判決を受けるべきところ、両名とも不起訴処分となつているのである。
(四) 本件においては、訴外池田秀美振出の約束手形(甲第一〜四号証)を被上告人が所持しているが、振出人に対する請求はなされておらず損害を蒙つたとは言えない。
従つて、被上告人において損害がない(あるいはその立証がない)のに原判決は上告人らに対する支払義務を認定しているのであつて、判決の理由に齟齦あるものと言うべきである。
二、原判決が上告人会社につき名板貸責任を認めた点については民事訴訟法第三九五条一項六号の理由不備の違法があり、且つ最高裁判所(昭和三七年(オ)第一三七二号事件昭和四〇年二月一九日第二小法廷判決)にも違背する。
(一) 上告人会社と上告人西口との関係は単に上告人会社の岸和田連絡所として、荷物の斡旋依頼を受けたり空車の利用を相互にする程度であり、まさに内部的な問題であつた。
そして、上告人西口は「上告人会社岸和田営業所長」の名称を上告人会社に無断で使用していたようであるが、之については上告人会社は何ら知り得なかつたものである。
(二) 前記最高裁判所は内部的名称の付与については特段の事情がなければ名板貸責任は問えないとしたものであり、何ら特段の事情のない本件において名板貸責任を認めたことは理由不備である。